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デジタルカメラ画像処理効果のfMRIを用いた脳機能画像計測による解析

首都大学東京 人間健康科学研究科 
 菊池吉晃 則内まどか 大場健太郎
オリンパス株式会社
 柳田修太 高田勝啓 鈴木 征一郎 小坂明生 三由貴史


はじめに
プロカメラマンが撮影した写真は美しくまた感動的である。外界を切り取るプロの目、腕が大きな要因であることは言うまでもないが、我々一般ユーザには難易度が高いテクニックである、ソフトウェアを用いた撮影後の画像処理も要因の一つと考えられる。
我々が写真を見て心が動かされるのは、写された被写体を認知する際、記憶との照合と同時に情動が喚起することに起因すると言われている。この考え方に基づけば、プロは画像処理によって主要な被写体の印象を強め、鑑賞者の認知を助けることによって、より感情の動きを強めていると考えられる。
本研究では、処理色と明るさを制御することによって主要被写体の印象を強める処理を施した写真(情動喚起画像)と全体的に彩度を上昇させ画面全体の色の印象を高めた写真(色彩強調画像)の主観的印象や脳活動について、主観評価と機能的磁気共鳴画像法(fMRI: functional magnetic resonance imaging)による脳活動計測を用いることで、それぞれの画像の特徴と差異について検討した。

方法
被験者:
Chapmanの利き手テストで右手利きと判定された13名の健常女性被験者(年齢18.4±0.5歳)

提示画像:
一般的な撮影シーン(風景、食べ物、人物など)30シーンにつき、それぞれオリジナル写真、情動喚起画像、色彩強調画像の3パターンの合計90枚を用意した。

主観評価:
脳活動計測で提示した30シーン(全90枚)のうち代表的な6シーン(全18枚)の画像に対して、画像の印象を表す7つの形容詞を用いた6段階リッカート法による主観評価実験をおこなった。使用した7つの評価語は、鮮やかな、すごい、印象が良い、きれい、心がおどる、ワクワクする、心を奪われる、とした。
主観評価実験の結果から因子分析によって評価の主要因子を求め、その因子得点を用いた被験者の評価傾向から、選好する画像傾向で被験者を2群に分類した。

脳機能画像の計測:
各画像刺激提示は、提示時間3s、レスト3sのランダム提示とした。fMRIの撮像は、Philips社製3.0T Achieva Quasar Dualを用い、事象関連(event-related)デザインによって実施した。撮像パラメータは、FOV 230mm、slice厚 5mm、TE 35ms、TR 4000ms、1 volume=25 slices、Flip Angle 90°とした。

脳機能画像の解析:
DICOM画像をanalyze formatに変換した後、SPM2を用い、realign処理、normalize処理、smoothing処理(FWHM = 8mm)をおこなった。さらに、全被験者あるいは主観評価実験結果により分類された各被験者群ごとに、選好画像に対する脳活動と非選好画像に対する脳活動の2つのregressorからなる 一般線型モデル(GLM: general linear model)を適用し、後者に対する前者の比較(コントラスト)および個々のregressorの重みについて、p<0.001, uncorrectedで検討した。


結果
主観評価:
全被験者、全提示画像の因子分析の結果、評価は高揚感(心がおどる、ワクワクする、心を奪われる)と美感(鮮やかな、すごい、印象が良い、きれい)の2因子から構成されており、被験者ごとに情動喚起画像群、色彩強調画像群それぞれに対する2つの因子得点の総和を比較したところ、前者の因子得点が高い被験者群(情動喚起画像選好群:9名)と、後者の因子得点が高い被験者群(色彩強調画像選好群:5名)に分類できた。
情動喚起画像選好群は情動喚起画像に対する因子得点と色彩強調画像に対する因子得点の差が大きく、一方色彩強調画像選好群では因子得点の差が小さく、また評価語間において評価値の相関が高い特徴を有していた。

脳機能画像:
全被験者における情動喚起画像と色彩強調画像との比較(刺激画像による主効果)と、単一regressor解析による各被験者群における情動喚起画像と色彩強調画像に対する脳活動の差異について、とくに眼窩前頭皮質と前頭極の活動に焦点を絞って、以下に述べる。


刺激画像による主効果
色彩強調画像に対する情動喚起画像の脳活動については、図1左のように全般的に左半球優位であり左右の前頭極の有意な活動が認められた。一方、情動喚起画像に対する色彩強調画像の脳活動については、図1右のように全般的に右半球優位であり前頭極の有意な活動は認められなかった。

図1
図1


図1.色彩強調画像に対する情動喚起画像の脳活動(左)と情動喚起画像に対する色彩強調画像の脳活動(右)。青で囲ってあるのが前頭極。

各被験者群における情動喚起画像と色彩強調画像に対する脳活動
情動喚起画像選好群においては、情動喚起画像に対して左右の前頭極と左右の眼窩前頭皮質の有意な活動が認められた(図2左)。左右差については、前頭極で左優位、眼窩前頭皮質で右優位となった。また、色彩強調画像に対しては、右の前頭極と眼窩前頭皮質の有意な活動が認められた(図2右)。一方、色彩強調画像選好群においては、情動喚起画像に対して右の眼窩前頭皮質の有意な活動が認められた(図3左)。また、色彩強調画像に対しては、左の前頭極の有意な活動が認められた(図3右)。

図2
図2.情動喚起画像選好群における、情動喚起画像に対する脳活動(左)と色彩強調画像に対する脳活動(右)。黄で囲ってあるのが眼窩前頭皮質、青で囲ってあるのが前頭極。

図3
図3.色彩強調画像選好群における、情動喚起画像に対する脳活動(左)と色彩強調画像に対する脳活動(右)。黄で囲ってあるのが眼窩前頭皮質、青で囲ってあるのが前頭極。


考察
被験者群によらず、色彩強調画像においては右半球の活動性が高く、情動喚起画像では左半球の活動性が高かった。従来、右半球は全体的・直感的な情報処理に関与し、左半球は部分的・分析的な情報処理に関与することが多くの神経心理学的研究や心理学的研究などから示されている。色彩強調画像と情動喚起画像、いずれも素材は同じであったにもかかわらず、画像処理の違いによって脳内処理過程が異なっていたことは興味深い。これは、情動喚起画像は、色彩強調画像に比較して、画像全体というよりは、むしろ部分あるいは細部が強調されるような画像処理が施された画像であったことによると考えられる。さらに、情動喚起画像では左右の前頭極の有意な活動が認められた。右前頭極はエピソード記憶(episodic memory)における情動の強さと関連し1)、左の前頭極は多くの自伝的記憶 (autobiographical memory) 課題において認められている2)。したがって、情動喚起画像によって、被験者群によらず、色彩強調画像に比べてより強い自伝的記憶の想起が誘発されるとともに、より強い情動や感情が誘発されたと推察される。
また、眼窩前頭皮質は、脳のいわゆる報酬系の中でも高位の中枢であり、行動や判断のための報酬評価に関与する。最近では、絵画鑑賞によって誘発される感動3)や母性愛4)などとの関連も明らかにされている。本研究では、情動喚起画像選好群においては、情動喚起画像で左右の眼窩前頭皮質、色彩強調画像で右の眼窩前頭皮質での有意な活動が認められた。眼窩前頭皮質の左右差についてはまだ不明な点も多いが、Noriuchi, Kikuchiら(2008)の研究によると、左の眼窩前頭皮質はhappyやjoyful、右の眼窩前頭皮質はanxiousと正の相関を示すことが明らかにされている。同知見は、左眼窩前頭皮質は右眼窩前頭皮質に比較して、よりpositiveな感情と結びついた報酬に関する処理に関与していることを示唆する。したがって、情動喚起画像選好群では、情動喚起画像でより強いpositive感情が生じていたことが推察される。一方、色彩強調画像選好群では、色彩強調画像でとくに有意な活動が認められず、情動喚起画像で右眼窩前頭皮質において有意な活動が認められた。同事実は、色彩強調画像選好群では、相対的に色彩強調画像を好んでいるとはいえ、眼窩前頭皮質の活動に至るほどの強い報酬あるいは報酬期待の対象とはなっていなかったと推察される。また、色彩強調画像選好群における情動喚起画像で認められた右眼窩前頭皮質の活動は、情動喚起画像選好群において両画像いずれに対しても活動が認められたという結果とともに、右の眼窩前頭皮質とanxiousとが相関するという事実(Noriuchi, Kikuchi et al 2008)から、同部位の活動は単純にpositiveな報酬というよりは、被験者自身にとってのなんらかの意味を反映しているのかもしれない。もし、これが正しいとすれば、選好群の違いによらず、情動喚起画像の方が相対的になんらかの意味を惹起しやすいということが示唆される。
さらに、前頭極の活動については、情動喚起画像選好群では、情動喚起画像で左右の前頭極、色彩強調画像で右の前頭極の有意な活動が認められた。一方、色彩強調画像選好群では、情動喚起画像では活動が認められず、色彩強調画像で左の前頭極の有意な活動が認められた。このように、各群それぞれの選好画像に対して左の前頭極が活動したことから、個々の自伝的記憶を誘発するような画像を好む傾向にあることが示唆される。さらに、情動喚起画像選好群においていずれの画像によっても右の前頭極の活動が認められたことから、同群ではいずれの画像においても強い情動が生じていたことが推察される。これに対して、色彩強調画像選好群では、情動喚起画像群に比較して大きな情動の高まりは生じていなかったと思われる。
以上の結果から、情動喚起画像は、色彩強調画像に比較してより自伝的記憶想起を誘発しやすく、またより強い正の感情を誘発する傾向のあることが、脳機能画像の解析結果から示唆された。

1) Daselaar, Rice, Greenberg, Cabeza, LaBar, Rubin: The spatiotemporal dynamics of autobiographical memory: neural correlates of recall, emotional intensity, and reliving. Cerebral Cortex 18; 217-229, 2008
2) Svoboda, McKinnon, Levine: The functional neuroanatomy of autobiographical memory: A meta-analysis. Neuropsychologia 44; 2189-2208, 2006
3) Aoyama et al., in preparartion
4) Noriuchi, Kikuchi et al: The functional neuroanatomy of maternal love: mother’s response to infant’s attachment behaviors. Biological Psychiatry 63; 415-23, 2008


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